1. はじめに
ジョージア州では、雇用の創出や資本投資の促進を目的とした企業誘致施策の一環として、新たに進出する企業を対象とした固定資産税の軽減措置を用意しています。本資料は、こうしたジョージア州の固定資産税の軽減措置について説明することを目的としています。
ジョージア州憲法は、商取引や産業の発展及び雇用機会の促進を図るために、市や郡に経済開発局を設置し得ることを定めるとともに、それら経済開発局が所有する資産を非課税とすることができると定めています。そこで、ジョージア州の数多くの市や郡では、このような経済開発局を設けて、上記公的な目的を図るための固定資産税の軽減措置が用意されています。つまり、軽減措置の期間中(通常は5年から10年)は法律上課税対象とならない経済開発局が事業資産の固定資産税法上の所有者となり、実質的な所有権を企業に残すような条件でその事業資産を企業に賃貸(リース)することによって、結果的に企業が減税効果を享受できるようにするという間接的な固定資産税軽減措置です。ジョージア州の固定資産税の軽減措置は、ジョージア州への移転や事業展開を検討している企業にとって魅力的な内容となっており、すでに30年以上にわたる実績があるもので、現在もその対象となっている資産は数十億ドルに及びます。また、こうした軽減措置を利用している企業の中には日本の大手有名企業も複数含まれています。
以下では、ジョージア州における固定資産税の軽減措置の概要をより詳しく説明するとともに、その具体的な手順について説明します。
2. ジョージア州における固定資産税の軽減措置の概要
前述のとおり、ジョージア州における固定資産税の軽減措置の要点は、地元経済開発局が事業資産の固定資産税法上の所有者になることにあります。以下では、典型的な軽減措置を例に取引の流れと内容を説明します。
(1) 企業(当事会社)が経済開発局を地元に持つ市や郡に事業資産を取得します。
(2) 地元の経済開発局は事業資産の購入のために通常Industrial Revenue Bond (IRB)と称される公債を発行します。
(a) 多くの場合、公債は事業資産を売却する当事会社自身によって引き受けられます 。つまり、経済開発局は公債をそのまま購入代金に充てることになります。
(3) 当事会社が経済開発局に事業資産を譲渡します。
(4) 経済開発局が当事会社に事業資産を賃貸(リース)します 。
(a) リース契約において、経済開発局は当事会社へ事業資産の運営(工場の建設、操業、設備投資など)を委任し幅広い権限を与えます。従って、事業資産の実質的な所有者はこの当事会社であり続けます。
(b) 多くの場合、経済開発局は公債権者の利益を代表して公債の管理を行う受託者(Trustee)をおきます。この受託者の役割や義務は経済開発局と受託者の間で締結される信託証書(Trust Indenture)に規定されます。
(c) 当事会社が経済開発局に支払うリース料は、上記(2)(a)に基づいて当事会社が引き受けた公債の元金及び金利の支払いと相殺処理されます。
(d) 当事会社には、リース期間中いつでもリース契約を解約し、名目的な買戻代金(例えば$100ドル)と公債の解約と引き換えに事業資産を買い戻すことができる権利が付与されるのが一般的です。そうすることで、固定資産税軽減措置は当事会社の選択でいつでも解消できる仕組みになります。また、通常は当事会社の事業資産に対する権利を公示し明確にするために、略式のリース契約を登記します。
(5) 上記(3)の結果、経済開発局が事業資産の固定資産税法上の所有者になりますが、経済開発局は法律上課税対象にならないため固定資産税の支払義務を負いません。リース契約のもと実質的な所有権を持つ当事会社は、事業資産の賃借権の評価額の範囲で固定資産税を負担します。
(a) 固定資産税は所有している資産だけでなく賃借している資産に対しても課税されます。
(b) 賃借権の評価額は所有権の評価額よりも一般にかなり低くなるため、事業資産を自ら所有している場合と比べて固定資産税は安くなります。これが本資料で説明する固定資産税の軽減措置の本質です 。
(c) 多くの場合、賃借権の評価方法について当事会社と経済開発局との間で合意がなされます。また、可能な場合は、これと併せて、合意した評価方法に対する当該地域の課税当局の承認ないし確認を得ておくことが望ましいと考えられます。
(d) 固定資産税の軽減措置によって受けた便益を一定の場合に課税当局に返還する合意を求められる場合があります 。
(i) 固定資産税の軽減措置が導入された事業の結果、地域社会に当初想定していたような便益(雇用、資本投資など)がもたらされなかった場合に、軽減措置によって当事会社が得た便益の一定部分を返還することを目的として、当事会社が税務当局に対し、税金に代えて一定金額を支払う合意のことをいいます。
(ii) ジョージア州において、税金に代わる支払契約は、州が下記の補助金を付与する場合には必要的に締結されますが、それ以外の場合に締結されることは一般的ではありません。
また、事業資産の所有権を経済開発局が保有することにより、州に対する補助金の申請が容易になるというメリットもあります。この補助金は事業資産の取得や建設のために用いる必要があり、事業資産について生じた費用の支払に充てたり、当事会社が負担した費用に対する補償に充てられます。
3. 固定資産税の軽減措置の具体的な手順(時系列に沿って説明)
(1) 固定資産税の軽減措置の導入について、当事会社と地元経済開発局との間で協議を行います。
(a) 当事会社にとってより有利な条件を模索するため、投資先の候補地を複数選択し、複数の市又は郡の経済開発局と同時並行的に協議を進めることも考えられます。
(2) 経済開発局は当該事業が雇用創出や資本投資などの公的な目的にかなうことを承認し固定資産税軽減措置を行うことについて決議(Inducement Resolution)を行い、また当事会社と誘致契約(Inducement Agreement)を交わします。
(3) 公債発行の具体的な方法等について、当事会社と経済開発局との間で協議を行います。
(4) 当事者間で、契約書など必要書類の検討・準備を行います。
(5) 経済開発局において公債の承認及び司法上の公債の有効化手続を行います。
(a) 経済開発局内部で、正式に公債発行を承認します。
(b) (a)と併せて、ジョージア州では、裁判所による公債有効化命令を得る必要があります。もっとも、迅速かつ機械的に行われる手続であり、通常3週間程度で命令が得られます。
(c) 公債有効化命令を得ておくことによって、公債の保有者(多くの場合当事会社)は、公債の支払を担保する事業資産や諸契約上の権利に対する担保権が有効でありかつ執行可能であることの確証を得られるというメリットがあります。
(6) 未締結の契約書の締結、公債の発行や不動産関係書類の引渡しなど、クロージングを行います。
上記手続の際に発生する費用(当事会社や経済開発局の弁護士費用等)は通常固定資産税軽減措置の便益を受ける当事会社が負担します。
4. 最後に
本資料はあくまでもジョージア州における投資を検討されている日本企業の皆様への情報提供を目的としたものであり、特定の事実関係を前提とした法的アドバイスを構成するものではないことをご了承ください。