1. 法律事務所の代表的な役割
米国において工場などを新規に設立するFDI(=Foreign Direct Investment; 海外直接投資、グリーンフィールドともいう)プロジェクトにおける法律事務所の代表的な役割を、工場設立に至るまでの流れに沿って、ご説明すると以下のとおりとなります。
(1) 地域の選択
アメリカは州や郡によって法律、税制や規制が異なるため、投資する地域を選ぶ段階で調査を行い、初期投資やその後の事業にとって法律・税制・規制面でも有利な地域に投資するべきです。法律事務所はその様な法律・税制・規制を調査して、地域間の比較を行う際にクライアントに助言します。
(2) サイト(土地)の選択
投資対象地域が決定しましたら、次にその地域内でサイトを選ぶ必要があります。サイトを選ぶ際には環境汚染の有無をはじめ、売り手の土地に対する権利に問題がないかなど、様々な観点よりそのサイトを調査することが必要です。法律事務所はその様な調査の結果を法律面から分析してクライアントに助言します。
(3) 誘致条件(インセンティブ)の交渉
サイトを選択する際に、地元の州政府や郡経済開発局等が通常提示してくる投資誘致条件(インセンティブ)を検討する必要があります。法律事務所はその様な投資誘致条件を法律面から分析して、それらの交渉にあたる企業に助言します。
(4) タックス・プランニング
FDIプロジェクトは通常多大な投資を必要とするため、節税の余地が多分にあります。法律事務所の税法専門家は最大限の節税を可能とするタックス・プランを提案できます。また、法律事務所は日本の本社と米国子会社との間の資金及び資産の移動に関連して発生する国際租税上の問題点についてもアドバイスが可能です。
タックス・プランニングには固定資産税の軽減措置(通常誘致条件の一部として提案される)なども含まれます。また、このような軽減措置はプロジェクトのファイナンシングと密接な関係にあるのでプロジェクト全体を担当する法律事務所に依頼するのが最も効率良いと言えます。
(5) 現地法人の設立
新たな現地法人を設立する場合、法律事務所はいくつかある法人形態(Corporation、LLC 等)の長所・短所を踏まえた上でプロジェクトに適した法人形態を提案し、その設立手続きを代行します。
(6) 不動産の売買
サイト決定後、通常企業はその土地を購入することになりますが、法律事務所は土地の売買契約書の作成をはじめ、契約の交渉・締結に協力します。
(7) ファイナンシング
米国におけるFDIプロジェクトの場合、Industrial Revenue Bond (IRB) と称される公債をはじめ様々なファイナンス手段がありますが、法律事務所はそれらオプションを提示し、それぞれの長所・短所について助言します。また、企業が選択したファイナンス・オプションを実行するための契約書の作成をはじめ、契約の交渉・締結にも協力します。
(8) サプライヤーとの契約交渉
新工場が完成するまでに企業は新工場に資材を供給するサプライヤーやその他の取引先と契約を交わす必要がありますが、法律事務所はこのような供給契約の交渉・締結に協力します。
(9) 駐在員の査証(ビザ)申請
法律事務所は日本からの駐在員のビザ申請手続きを代行します。(新会社の駐在員ビザを申請する場合、新会社の投資計画やビジネスプランなどをCISに提出する必要がありますので、プロジェクト全体を担当している法律事務所に依頼することで効率よく申請書類を揃えることができます。)
(10) 雇用に関するアドバイス
新工場の人員採用や就業規則の作成などに関して、法律事務所は労働・雇用法の観点から助言します。また、法律事務所は企業がセクハラや差別(人種・性・年齢・国籍) 等のクレームを避けられるよう、管理職を対象としたトレーニングも実施します。
(11) 知的財産権に関するアドバイス
新工場の設立により米国への新規進出を行う場合、日本本社が有している商標権、特許権などの知的財産権が米国においても適切に確保されているかを確認する必要があります。更に、米国に製造販売される製品が他社の知的財産権を侵害しないことも確認が必要です。法律事務所はこれら知的財産権の登録状況の確認及び登録申請等、並びにに他社の知的財産権の調査などを代行することができます。
2. 法律事務所に依頼する必要性・メリット
米国では、直接投資プロジェクトの交渉の相手方となる郡経済開発局、土地の売り手、建設会社等もそれぞれ弁護士を雇い、誘致条件や固定資産税減免措置などの具体的な交渉にあたるのが一般的ですので、そのような場合必然的に投資を行う企業側も法律事務所の助言を得ることが必要となります。
また、工場設立後に何らかの問題が発見されたり又は発生した場合、米国では事後的な紛争処理には多額のコストと場合によっては想像以上に多額の損害賠償等のリスクが伴いますので、工場設立段階での予防的な法務の必要性は非常に高いといえます。
工場の設立段階で法律事務所との関係を築いておくことは、工場操業開始後万が一不測の事態が発生した場合に、迅速かつ的確な法的アドバイスを得るためにも有益です。
上記1.でご説明申し上げましたとおり、米国におけるFDIプロジェクトにおいて法律事務所の関与が必要とされる分野は多岐にわたっています。また米国では弁護士の専門化が日本以上に進んでいますから、FDIプロジェクトにおいては、多分野にわたって総合的なサービスを提供でき、かつ、対象地域に広範囲のネットワークを有する総合法律事務所に依頼をすることが望ましいと思われます。
3. 最後に
本資料はあくまでも米国における投資を検討されている日本企業の皆様への情報提供を目的としたものであり、特定の事実関係を前提とした法的アドバイスを構成するものではないことをご了承ください。